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岡山地方裁判所 平成元年(行ウ)9号 判決 1992年1月28日

原告

岡山電気軌道株式会社

右代表者代表取締役

松田基

右訴訟代理人弁護士

小野敬直

被告

岡山県地方労働委員会

右代表者会長

上村明廣

右指定代理人

甲元恒也

高橋幸男

吉沢正樹

渡辺健

和田秀樹

小野岩夫

被告補助参加人

私鉄中国地方労働組合岡山電軌支部

右代表者執行委員長

津田俊明

右訴訟代理人弁護士

奥津亘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は参加により生じたものも含め原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が岡委昭和六二年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について平成元年七月二五日付でした命令を取り消す。

2  訴訟費用は、補助参加によって生じたものを含め、すべて被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二原告の主張

一  被告は、補助参加人を申立人、原告を被申立人とする岡委昭和六二年(不)六号不当労働行為救済申立事件につき、平成元年七月二五日付けで別紙(略)のとおりの救済命令(以下、「本件命令」という)を発し、同命令書の写しは、同日原告に交付された。

二  しかしながら、本件命令には、以下のとおり事実の認定及び法律の解釈・適用を誤った違法がある。

1  原告と補助参加人との間の労働協約九五条(以下、「本件条項」という)は、「会社は、争議行為に参加した組合員に対しては、その日数及び時間に対する一切の賃金は、これを支払わない。」と規定し、ノーワーク・ノーペイの原則を定めたものであり、これに反する労使の合意が成された事実はなく、原告がストライキ参加者の昭和六二年夏季手当仮払分、住宅(第二)手当夏季分及び同夏季手当の昇給差額追加支払分からストライキによる不就労日全日数の賃金を控除したこと(以下、「本件ストカット」という)は正当かつ適法なものである。

2  本件命令は、ストライキを理由とする賃金カット(以下、「ストカット」という)が許されるかどうかを判断する基準として、交換的賃金であるか、生活保障的賃金であるかに留意すべきであるとしているが、このような賃金二分説は根拠を欠き、一般的法原則として妥当するものでないし、原告においては生活保障的賃金も存在しない。

3  本件命令は、昭和六一年までのストカットは毎月支払われる基本給部分のみであり、それ以外の手当がカットされた例はないとしているが、証人津田俊明の陳述に照らし明らかに事実誤認である。

4  本件命令は、原告の補助参加人に対する姿勢を認定するにあたって、本件ストカットから約一年を経た昭和六三年四月一六日付の文書(証拠略)を用いており、しかも、右文書が補助参加人を中傷誹謗していると断定しているが、右文書は経営者が会社の現状を憂えていることを表明したものにほかならず、事実誤認である。

5  本件命令は、昭和六二年の春闘において従来にない深刻な対立を招いた理由について事実認定を誤っている。すなわち、原告が財務状況からみて将来にわたる経営の行き詰まりを恐れることは第一三三期営業報告書(損益計算書)や昭和六一年度及び六二年度地方バス維持費国庫補助金等交付額調べ等の証拠から見れば当然のことであり、また、補助参加人の賃上げ要求が過大であることも明らかである。

6  次に、本件命令は、本件条項の解釈をめぐって労使間で議論が交わされたこともなければ、昭和六一年以前のストライキを含む争議の終結した後に支払われる賃金の支給の際に、会社から権利の放棄と目すべき特段の意思が表示された事実はないとして、本件条項の解釈に決定的な影響を及ぼすまでの労働慣行の成立を認めている。しかし、労使慣行が労使双方を拘束するものとなるためには、労使双方の意思の合致が前提となるものであり、単にストカットを見送ってきた会社の一方的行為のみによって拘束力が生じるものではない。本件命令は、事実たる慣行と拘束力を有する労使慣行とを混同している。また、そもそも労使慣行が規範的効力を持ち得るのは明文の協定が存在しない場合に限られるのであって、本件のように明文の協定が存在する以上これを否定することはできない。

7  さらに、本件命令は、本件ストカットは、労働組合法(以下「労組法」という)七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為と認められるとしているが、右各条項に規定されているいずれの行為があったかを特定しておらず、法律の適用に不備がある。

8  また、本件命令は、大森猛の控除分についても救済命令の対象としているが、本件命令の申立人は補助参加人であり、個々の組合員ではないから、すでに死亡している大森猛の控除分に対する救済命令は違法である。

三  よって、原告は、本件命令の取消しを求める。

第二原告の主張に対する認否及び被告の主張

一  請求原因の事実は認める。

二  同二の主張は争う。

三  被告が本件命令において不当労働行為を認定した理由は本件命令書記載のとおりであり、被告の事実上及び法律上の主張は右記載のとおりである。これによれば本件命令は適法である。

第三補助参加人の主張

一  本件条項について

本件条項にいう「一切の賃金」には基本給以外の手当・臨時給与は含まれない。すなわち、ストライキの「日数及び時間に対する」とあるように、ストライキによる不就労と直接の対価関係に立つ基本日額に限って支払わないとしているものである。

二  労使慣行について

会社は、昭和四一年以降昭和六一年までの間、祝日手当を除き、ストカットを基本給以外の賃金については行っていない。そして、昭和四一年に行った祝日手当のストカットも岡山地方裁判所が昭和四七年四月一三日に言い渡した判決により不当とされたことから、以後ストカットを行っていない。そして、ストカットについて、原告と補助参加人との間で協議したり議論したことはなく、原告は、基本給以外にストカットしないことを承認していたし、補助参加人もストカットされないものと認識し組合員にも説明してきた。したがって、基本給以外にストカットが行われないことは、事実たる慣習としての効力を有する。

三  本件ストカットの不当労働行為性

本件ストカットは、補助参加人の組合員の賃金請求権を確立した労使慣行に反して一方的に奪う不法なものである。そして、本件ストカットは、原告が、<1>ストライキを嫌悪し、これに対する報復として、<2>将来にわたりストライキを抑制するために、<3><2>の結果として賃金の抑制を狙い、<4>ひいて、組合の存在意義、発言力、影響力を低下させ、組合の弱体化を図るためになされたものであるから、労組法第七条一号、三号に該当する不当労働行為である。

四  以上のとおり認めた本件命令は、適法である。

第四証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する(略)。

理由

一  原告の主張一(本件命令の存在)の事実は当事者間に争いがない。

二  証拠(証拠・人証略)によれば以下の事実を認めることができる。

1  当事者

原告は、軌道・索道および自動車による一般旅客運輸等を業とする株式会社であり、補助参加人は、原告の従業員をもって組織する労働組合で、日本私鉄労働組合総連合会の一地方連合組織である私鉄中国地方労働組合に属する支部である。

2  原告の賃金等の体系

原告の就業規則三一条に、給与についての規程があり、賃金、諸手当、昇給等については「賃金規程」によるとされている。そして、昭和六二年当時の賃金規程は昭和四八年一二月一六日改訂されたものが施行されていた。

原告の賃金は、基本給(年齢給、勤続給及び能力給)と諸手当(家族手当、精勤手当、職務手当、食事手当、乗務手当、住宅手当及びその他の手当からなる基準内賃金と超過勤務手当(時間外手当及び深夜手当)とその他の手当(ワンマンカー手当、ガイド手当、祝日手当、指導手当、宿直手当及び通勤手当)からなる基準外賃金から構成されている(賃金規程三条)。

また、夏季及び冬季臨時給の支払いは、昭和二一年一一月ころから「生活危機突破資金」「越冬資金」として始まり、昭和三二年から「年間臨時給与(夏季分、冬季分)」な(ママ)り、現在に至っている。このような年間臨時給は、賃金規程には定めがなく、原告と補助参加人との間において毎年賃上げと共に協定されて支払われてきており、昭和四二年以降は欠勤者などの減額分を組合員に分配するいわゆる「再分配」は行われていない。第二住宅手当は、昭和五四年に補助参加人が生活関連手当として住宅手当の増額を要求したが、原告が基準内賃金の増額に難色を示したため、年二回臨時給与の支払い時に合わせて「住宅(第二)手当」という名称で支給されることになり、平成元年「精励手当」に変更され、査定が導入されるまで一律の額で支払われていた。

3  昭和六二年の春闘の経過

(一)  補助参加人は、昭和六二年二月二五日、原告に対し、一人平均二万円の賃金増額等を主要な内容とする春闘要求をなし、スト権を確立したうえ、同年三月二六日、第一回団体交渉が行われたが、実質的な交渉は行われなかった。その後同年四月一六日の団体交渉において、原告から、人件費の運輸収入に占める割合が六〇パーセントを越えるようになってきたことから高額な賃上げ要求には応じられないとして、四八〇〇円の第一次増額回答がなされたが、補助参加人はこれを拒否し、同日第一波二四時間ストライキ、同月一八日第二波二四時間ストライキ、同月二八日第三波二四時間ストライキを実施した。この間原告から新たな回答はなく、同月二九日に至り六五〇〇円の第二次増額回答がなされたが、補助参加人はこれを拒否し、同年五月九日から四八時間ストライキ、同月一三日から七二時間ストライキを実施し、四八時間で終結した。しかし、補助参加人は、原告の決算時の利益は一億一五〇〇万円を計上していること、産業別賃金水準の確保は強く要求していたことなどから妥結には至らず、同月一四日、被告へあっ旋を申請し、同年六月六日までに五回のあっ旋が行われたが効を奏せず、格別の進展はみられなかった。そして、日本私鉄労働組合総連合会代表者、私鉄中国地方労働組合代表者等で構成される統一指導委員会による団体交渉を経て同月一九日、一人平均六七〇〇円の賃金増額、年間臨時給を五・〇か月分とすること等で妥結し、春闘は終了した。

(二)  原告代表者松田基は、両備バス株式会社の代表者を兼ね、両社は両備グループを構成する同一系列下の企業であり、補助参加人は、これまで右グループの春闘相場を牽引する主動的な立場にあったが、昭和六二年の春闘においては、両備バス株式会社の労使が同年四月一六日、六五〇〇円の賃上げ額でまず妥結したにもかかわらず、原告は、人件費の割合がますます高まっており、国庫補助金もないことを理由に同月末まで四八〇〇円の回答に終始し、また、同年五月八日、補助参加人に対し、一方的に団体交渉は原則として就業時間中に限ることを通知するなど強硬な姿勢を示し、一方補助参加人も、私鉄中国地方労働組合の中鉄支部や井笠鉄道支部が八〇〇〇円以上で妥結していることや産業別労働運動の観点から大手私鉄に準じる賃上げを強く要求したため、これまでになく長期かつ多数回にわたるストライキが実施されることとなった。

4  本件ストカットの実施

(一)  昭和六一年までの状況

昭和四一年から昭和六一年までの間、毎年のようにストライキが実施され、昭和四五年、昭和四九年、昭和五〇年は合計三日間の全日ストライキが行われているが、基本給がストカットされるにとどまり、夏季及び冬季臨時給の支給について欠勤扱いとされたことはなかった。そして、食事手当は労働日数に付き、乗務手当は乗車した距離数に付き支給され、基準外の諸手当ては指導手当、通勤手当を除いて現に勤務した時間や状況に応じて支給されるものであるから、就労しなかった場合には支給の対象にならないという意味で欠勤による控除とは別のものである。

ところで、原告は、昭和四一年五月三日および五日のストライキを理由に祝日手当を控除したが、補助参加人は岡山地方裁判所に訴えを提起し、祝日手当の控除は許されない旨の判決を得た。そして、訴え提起を含む補助参加人の強い抵抗にあったことなどから、昭和四二年以降基本給以外にストカットがされたことはない。夏季及び冬季臨時給、住宅(第二)手当のストカットももちろん昭和六一年まではまったくなかった。

一方、原告と補助参加人との間の労働協約には本件条項が存在するが、就業規則、賃金規程にはストカットの範囲についての規定はなく、昭和六一年までに原告と補助参加人との間でストカットの範囲について論議されたり、協定されたこともなく、原告からストカットはしないでおくといった旨の留保なり異議がされたこともない。

なお、(人証略)は、会社の怠慢、過失によりストカットしなかったと供述し、審問期日においても同様の趣旨を述べているが、前記判決の存在に照らし信用できない。

(二)  本件ストカットの実施

原告は、昭和六二年六月二日、同年七月一〇日に旧ベースで夏季手当の仮払いを行うこと、その際四月一六日から五月一四日までのストライキについて従来の支給基準に基づきカットを行う旨を通告した。この「従来の基準」とは何かについて補助参加人の書記長であった津田俊明が原告の労務部長である楢村普典に問い質したところ、一般の欠勤と同様に扱い、欠勤五日までは欠勤控除せず、それを越える日数について一日当たり一五五分の一を控除するという説明であった。そこで補助参加人は事前協議の対象であるとして協議を申し入れたが、原告は拒否した。そして、右楢村は、同月三〇日に、「ストライキによる不就労日数とその余の欠勤日数とは別個に計算し、格別にそれぞれが五日を越える日数についてカットを行い、五日までの日数についてはいずれもカットの対象としない」との見解を右津田に伝えた。ところが、原告は、同年七月一日、幹部会においてストライキは私鉄層(ママ)連の指令に基づく集団的労務提供拒否であるから一般の欠勤とは同一扱いにしないとして、七日に至り、補助参加人に対し、右いずれの見解も取り消し、ストライキについてはその日数の如何にかかわらず全日数を一日につき一五五分の一宛控除するとの見解を示した。

原告は、この七月七日の見解に基づき、同月一〇日、夏季手当二・五か月分及び住宅(第二)手当夏季分の仮払いをする際、四月一六日から五月一四日までのストライキ(五波七日)について、その参加日数の全日にわたり一日当たり一五五分の一ずつを控除し、さらに、同年九月一〇日、賃上げ協定に基づき仮払いした夏季手当との差額を支払う際にも、同様の控除をした。

5  その後の原告の姿勢

原告の代表者代表取締役松田基は、昭和六三年四月一六日付けで、昭和六三年の賃上げ交渉についての所信を披露するとして、補助参加人についての狂歌を全従業員に配布したり、昭和六三年はさらにストカットの範囲を拡大したりしている。

6  大森猛の死亡

大森猛は、昭和六二年七月一二日死亡し、同人の妻大森政子及び子大森博文及び大森利夫が同人を相続した。

右のとおりの事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

三  不当労働行為の成否

1  労使慣行の確立

右二認定の事実によれば、原告は、昭和四一年「祝日手当」をストカットしたが、補助参加人が訴訟を提起したことや岡山地方裁判所においてこのストカットが合理性を欠くものと判断されたことなどから、円滑な労使関係の維持を図るという目的もあって、以後本件ストカットが行われるまで本件条項の存在にもかかわらず、ストライキが実施されても基本給のカット及び食事手当、乗務手当の不支給以外にストカットをした例はないこと、その間本件条項やストカットの範囲の変更について原告と補助参加人との間で協議や論議がされたことはなく、ストカットの範囲を具体的に明確にした就業規則や協定書等はないこと、補助参加人も臨時給与や住宅(第二)手当についてストカットはないものと認識していたし、原告の方からも異議を出すことなく二〇年余りが経過していることが認められ、結局、支給要件に欠けることになる食事手当や乗務手当等の不支給は別として、ストカットの対象となるのは基本給だけであるという労使慣行が確立していたというべきである。

原告は、本件条項が存在する以上、労使慣行が規範的効力を有する余地はないと主張する。確かに、労使慣行の存在それ自体に法的効力があるものではない。しかし、就業規則及び賃金規定にはストカットの範囲についての定めがないこと、任意条項と慣習が同時に存在することはままあり、当事者がこの慣習を優先させることもありうることなどに鑑みれば、本件条項の存在だけによって労使慣行が労働契約の内容となることや労使慣行に反する行為が不当労働行為に当たるとすることを否定することはできない。

2  本件ストカットの不当労働行為性

右のように食事手当や乗務手当等の不支給は別として、ストカットの対象となるのは基本給だけであるという労使慣行が確立していたところ、原告は、春闘の最中に、労使慣行と異なる臨時給、住宅(第二)手当のストカットを一方的にしかも「従来の支給基準」というあいまいな表現でもって通告していること、本件ストカットに至るまでストカットの範囲について短期間の内に変更していること、結局事前も事後にもストカットをなす合理的理由を示すことがなく、補助参加人と協議することもなかったこと並びに昭和六二年の春闘の経過、その後の原告の補助参加人に対する意識などを総合して考慮すると、本件ストカットは、補助参加人の労働組合としての存在、活動を嫌悪し、ストライキに対する報復、抑制を狙い、その結果として賃金の低額化をもたらし、もって労働組合の弱体化を図る目的で、一般の欠勤より更に不利な条件でなされたものといわざるをえない。したがって、本件ストカットは労組法七条一号の不利益取扱(労働者が労働組合の正当な行為をしたことの故をもってこれに対して不利益な取扱をすること)に該当すると同時に同条三号の支配介入に該当するものといわなければならない。

3  よって、本件命令が、本件ストカットにより控除された昭和六二年夏季臨時給及び住宅(第二)手当の支払いを命じたのは、結論において正当である。

四  原告の主張について

1  賃金二分説について

本件命令は、「ストカットの範囲をめぐって労働協約・契約などに定めがないか、解釈に疑義のある場合は、斟酌すべき基準として交換的賃金であるか生活保障的賃金であるかに留意すべきものと考え」、「夏季手当及び住宅(第二)手当が生活補助費的賃金の色彩を濃く帯び、ストカットの対象とすること自体強い疑念を払拭できない賃金であったとも考えられ、こうした事情は労働慣行を形成した本件協約当事者の意思を推定する一つの根拠になる」という。

臨時給与が「生活危機突破資金」「越冬資金」として始まり、生活関連給として第二住宅手当が導入されたことから、これらに生活保障的な性格が全くないとは言い切れないが、前記二認定の事実によれば、昭和六二年当時においては賃上げの交渉、協定と並行して行われていること、昭和四二年以降は再配分もされていないことなどから、客観的にも、また労使の意識上も労働の対価としての性格も否定できないものである。したがって、賃金の性格性自体からストカットの対象としえないとはただちにいえないのであり、本件命令も最終的には労働慣行によってストカットの範囲を認定しているものと思われる。この点、本件命令は誤解を招くような表現もあるが、一般的法原則として適用しているわけでなく、原告の主張は採用できない。

2  不当労働行為の特定について

確かに本件命令の23頁「第3救済方法」の項においては単に「本件賃金控除は、労組法第7条第1号及び第8号に該当する不当労働行為と認められる」とだけ記載があるが、「第2判断」の項を合わせてみるならば、前記三の当裁判所の認定判断と同様の認定判断をしていることが明らかである。したがって、本件命令の表現はやや適切を欠くものであるかもしれないが、原告の主張は採用できない。

3  大森猛の控除額について

補助参加人は、本件ストカットの組合活動一般に対する抑圧的、支配介入的効果を除去し、正常な集団的労使関係秩序を回復、確保するため、組合員の個人的利益を離れて本件命令の主文が命ずる内容の救済を受けるべき固有の利益を有しており、この利益は本件ストカットがなかったと同じ事実上の状態が回復されるまで存続するというべきである。もっとも、本件のように組合員個人の雇用関係上の利益回復という形の救済を求める場合に、当該個人の意思に反して救済を実現することはできないと解するのが相当であるところ、大森猛は、前記のとおり昭和六二年夏季手当及び住宅(第二)手当の仮払いを受けた後の同年七月一二日死亡しているが、同人又はその相続人において、本件ストカットに係る右手当を放棄する旨の意思表示をしていることなどを認めるに足る証拠はない。

したがって、補助参加人は、右大森についての本件ストカットに係る控除分の支払いを求めることができるものというべきであり、この点についても原告の主張は採用できない。

五  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梶本俊明 裁判官 岩谷憲一 裁判官 下村眞美)

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